2018/08/19

 8月18日の土曜日に蛮天丸さんと綾瀬の大松で開店前から並んで飲んだ。ぼくがどうしてもアブラ味噌とタン塩を食べたかった所為だ。大松のボールともつ焼きの味噌はさながら補色のように絶妙な関係を保っているが、中でも開店直後にしか注文できないアブラ味噌は一度食べておきたかった。これはとても美味しかった。

 注文はアブラ味噌、ガツ刺し両方、タン塩、カシラ味噌。互いにボールを三杯ずつ。煙草を美味そうに吸うね、と言われる。美味いよ、と答えた。

 

 「それでも私は雪を見る」について。蛮天丸さん曰く、あの小説の白眉である「ぼく」と菊池さんが雪の中で手を繋ぐシーンには下敷きがあるとのこと。中学受験の国語の問題に出たそうだ。そしてその小説は、手を繋いで終わる。設問は、「この小説の続きをあなたが書きなさい」。

 当時彼は去った女の子を追って電車に乗り込む展開を書いたそうだ。でも後に考えると小学五年生で電車を使うのは不自然だと思ったという。だから、改めてその設問へのアンサーとして、後の場面を書いたのだという。

 飲みつかれたあとカフェ・ベローチェで歓談して、最後は北千住でもっとも素晴らしいBarのひとつ「Peace」で素晴らしい酒を飲む。値段も意想外だったが蛮天丸さんが立て替えてくれた。あの体験には代えられない、とかれは言った。会計は二万九千円だったので、ぼくが後日払う分は一万四千五百円だ。面目ないが本当にいま経済的に盤石からは程遠い。贅沢を心得てはいるが実際は貧しいのだ。台所はずっと燃えている。

 

 思えば8月はよく綾瀬で飲んだ。

 春日さんと、木曜日と金曜日に飲み、土日を挟んで月曜日にまた飲む、なんてことをやった週もあった。とにかく大松の味噌とボールは一度口にしたら愛おしくてたまらなくなる。煙草並みの依存症がある。串揚げのこたにのこたにサワーも悪くない。ここは何と言っても安い。サワーが100円だ。しかもジョッキで来る。缶ジュースより安い。春日さんには感謝している。

 

 ベランダで煙草を吸っていると秋の気配があった。

 また季節が過ぎ去る。何の手応えもないまま歳を取ってゆく。人生は花火のように勢いよく爆散するには少し長いが、やはり、やはり、短い。小説や詩の傑作を書き上げられるだろうか。そうして愛するひと達と長く一緒に過ごしたい。でもやはりたまには酒を飲みたい。貧しくして死んでゆくのかもしれない、ぼくらは。何も分からない。「平成最後」とか謳われる、暑かっただけの平凡な夏が間もなく過ぎ去ろうとしている。

 

 こんなはずじゃなかった、という言葉はまだ口にしない。